サウナに入っていると、いろんな人に出くわすものだ。
先日、サウナ室にいるのが、たまたま僕一人だった際に、ひとりの老人が入ってきた。
年齢は60歳後半から70歳前半といったところだろうか。
僕が座っている場所からは、やや離れた場所に腰を下ろすやいなや、「俺はダメだ。俺はダメだ」としきりにつぶやき出した。
サウナのような閉ざされた空間で、且つ、周りに他人がいたら、通常、自分を卑下する言葉を発するのはためらうものだけど、どうやら、その老人の眼中には、僕は入っていないようだ。
しばらく、黙っているかと思えば、また、思い出したように、「俺はダメだ。俺はダメだ」とつぶやき始める。
いったい、このじいさんに何があったというのか。
・妻と喧嘩して、妻が家を出て行ってしまったのか。
・健康診断で重大な疾患が見つかってしまったのか。
・再雇用された会社で致命的なミスを犯してしまったのか。
・妻には内緒で付き合っていた彼女にふられてしまったのか。
・孫に「口臭い」と嫌われてしまったのか。
いつもの妄想が僕の頭の中を駆け巡る。
そして、しきりにつぶやいたことに満足したのか、サウナ室を出て行ってしまった。
僕はしばらく、何だか悪い夢を見せられたような感覚に陥ってしまった。
しかし、僕はこうも考えた。
サウナに入れるぐらいの元気があるならば、全然「ダメ」ということもなかろうと。
じいさんの立ち直りを期待して、サウナ室をあとにした。